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プレスリリース リグニンからのポリマー原料生産微生物システムの開発(政井・上村)

2017.06.20

本学・生物機能工学専攻の微生物代謝工学研究室グループ(政井英司 教授、上村直史 助教、高橋健司 博士研究員)は、弘前大学・農学生命科学部の園木和典 准教授との共同研究により、木材の主成分であり未利用芳香族資源であるリグニンだけを用いて、ナイロンやペットボトルなどの原料になるムコン酸を生産する微生物の開発に成功しました。

本研究では、微生物代謝工学研究室においてリグニン分解能力の解析を進めているSphingobium sp. SYK-6株をムコン酸生産微生物の一つとして用いています。

JSTプレスリリース「植物成分のリグニンだけでポリマー原料を効率的に生産する微生物の開発に成功」

 

これまでの技術は、微生物を用いてリグニンからムコン酸などの有用化合物を生産できたとしても、微生物の増殖に炭素源として“グルコースなどの糖質”が必要であったのに対し、今回開発した微生物は、リグニンから有用化合物を生産できるだけでなく、微生物増殖の炭素源にも“リグニン”を利用できることに特徴があります。

原料価格の点で優位なリグニンのみを用いることで、生産におけるコスト低減につながることが期待され、将来発生しうる糖質の需要競合を回避できます。 本研究成果の詳細は、平成29年6月24日(土)に開催される日本農芸化学会東北支部シンポジウム、平成29年9月11日(月)~14日(木)に開催される第69回日本生物工学会大会にて発表します。

本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)の一環として行われました。

 

本研究のポイント

非可食バイオマス成分の20~30%を占めるリグニンだけを用いて、従来石油から生産していたナイロンやペットボトルなどのポリマーの原料となる基幹化合物のcis,cis-ムコン酸を、遺伝子組換えにより特殊な代謝経路へと改良した微生物を用いて生産します。

本微生物の増殖に必要な炭素源はリグニンであるため、微生物による生産コストの低減が期待できます。

針葉樹・広葉樹・草本によって、G-リグニン、S-リグニン、H-リグニンの割合は異なりますが、いずれのバイオマス由来のリグニンでも利用可能な2種類の微生物株を開発しました。

開発した微生物株を用いて、スギ(針葉樹)とシラカバ(広葉樹)のリグニンからムコン酸を生産しました。

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研 究 内 容

(1)組換えPseudomonas(シュードモナス)属微生物株を用いたムコン酸生産 G-リグニン、H-リグニン由来の多様な芳香族化合物を唯一の炭素源として増殖できるPseudomoans putida KT2440株を宿主として、代謝関連酵素をコードしている複数の遺伝子について遺伝子組換えを行いました。

この組換えPseudomonas属微生物株は、G-リグニン及びH-リグニン由来の芳香族化合物をムコン酸生産へと導くだけでなく、微生物株自身が増殖するための代謝経路も保持できることがわかりました。スギやマツ、ヒノキなどの針葉樹には主にG-リグニンが含まれていることが知られています。これまでの研究で、リグニン由来の芳香族化合物モデルであるバニリン酸(G-リグニン由来)と4-ヒドロキシ安息香酸(H-リグニン由来)の混合物を利用して、この組換え微生物株が増殖し、収率約18wt%でムコン酸を生産することを確かめています。また、スギ木粉から調製したリグニン分解物を利用して増殖し、ムコン酸を生産することも確認しています。

2)組換えSphingobium(スフィンゴビウム)属微生物株を用いたムコン酸生産 G-リグニン、H-リグニンに加えて、S-リグニン由来の多様な芳香族化合物を唯一の炭素源として増殖するSphingobium sp. SYK-6株を宿主として、代謝に関連する酵素をコードしている複数の遺伝子について遺伝子組換えを行いました(下図を参照)。

この組換えSphingobium属微生物株は、S-リグニン由来の芳香族化合物を自らの増殖のための炭素源・エネルギー源として利用できる代謝経路と、G-リグニンとH-リグニン由来の芳香族化合物をムコン酸へと導く経路を保持していることに大きな特徴があります。ユーカリやシラカバなどの広葉樹、稲わらやバガスなどの草本は、G-リグニンやH-リグニンに加えて、S-リグニンを多く含むことが知られています。これまでの研究で、リグニン由来の芳香族化合物モデルであるシリンガ酸(S-リグニン由来)とバニリン酸(G-リグニン由来)の混合物やシリンガ酸と4-ヒドロキシ安息香酸(H-リグニン由来)の混合物を利用してこの組換え微生物株が増殖し、収率約35wt%でムコン酸を生産することを確かめています。また、シラカバ木粉から調製したリグニン分解物を利用して増殖し、ムコン酸を生産することも確認しています。

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今後の展開

本研究では、リグニンのみを原料として、ナイロンやペットボトルなどに使われるポリマー合成の基幹化合物であるムコン酸を、微生物を用いて生産し、かつ微生物の増殖も可能とする技術を確立し、平成29年4月25日に特許出願を行いました。今後は、ムコン酸生産の収量および収率を高めていくために、前処理方法の検討や、微生物株のさらなる改良を行う予定です。

 

関連リンク

微生物代謝工学研究室

弘前大学農学生命科学部・園木研究室

科学技術振興機構(JST)プレスリリース