学生の受賞・活動

佐野 孝晃さん 第65回リグニン討論会 優秀ポスター賞

2020.11.11

 生物機能工学専攻・修士課程2年生の佐野 孝晃さん(微生物代謝工学研究室(政井・上村研究室)、一関工業高専出身)が、2020年11月6日、7日にオンラインにて開催された第65回リグニン討論会で優秀ポスター賞を受賞しました。
 リグニン討論会は、1956年の第1回大会に始まり、2020年度において第65回を数えます。リグニン討論会は、2019年度からリグニン学会が主催として開催され、植物の主要細胞壁成分であるリグニン及び関連化合物に関する生物学的、生化学的、化学的、物理学的など、多様なアプローチによる研究成果を集約し、新規情報を関連分野全般に発信することを趣旨としています。本討論会は、リグニンをキーワードに知識・技術を集約し持続可能な開発或いは再生可能資源エネルギーの利用といった未解決の人類の課題に対して突破口を切り開くことを目指しています。

受賞研究題目

リグニン・β-O-4結合開裂能を有するバクテリアの探索と解析

研究概要

 植物の主要成分の一つであるリグニンは、地球上に最も豊富に存在する芳香族資源です。その膨大な存在量・再生産量から循環型社会の構築のための材料・エネルギー源としての利用が期待されています。現在、最も有望なリグニンの有効利用方法として、化学触媒等による高分子リグニンを分解し、これにより生成する低分子の芳香族化合物から微生物の代謝酵素を利用してポリマー原料化合物を生産する手法が注目されています。
 リグニンはヘテロな芳香族高分子であり、その約50%はβ-アリールエーテル(β-O-4)結合により連結されています。しかし、このβ-O-4結合を開裂する酵素であるβ-エーテラーゼはごく一部の細菌および真菌からしか見出されておらず、そのほとんどはα-プロテオバクテリアに属する細菌です。新規または高活性のβ-O-4結合開裂酵素を有する微生物を発見できれば、リグニンの有効利用を促進できると考えられます。本研究ではβ-O-4結合開裂能を有するバクテリアの探索を行いました。
 233箇所の環境試料から、リグニン由来化合物の主要な代謝中間体であるバニリン酸またはシリンガ酸で生育する菌株を918株単離しました。β-O-4結合開裂を簡便に評価するためにβ-O-4結合開裂アッセイ用蛍光基質を合成し、得られた蛍光基質を用いた試験を行った結果、918株のうち45株で有意な蛍光が観察されました。これらの株の休止細胞をβ-O-4結合のモデル化合物であるguaiacylglycerol-β-guaiacyl ether (GGE)とインキュベートし、反応産物を解析したところ、10株においてβ-O-4結合を開裂できることが示唆されました。16S rRNA遺伝子の系統解析から、7株はα-プロテオバクテリアのSphingobium属およびNovosphingobium属、そして3株はβ-プロテオバクテリアのRalstonia属およびDelftia属と同定されました。ゲノム解析の結果、Delftia属のバクテリアは既知のβ-エーテラーゼ遺伝子を保持していないことが強く示唆され、本株のβ-O-4結合開裂酵素系に興味が持たれます。現在、Delftia属のβ-O-4結合開裂酵素系の解析に取り組んでいます。

関連リンク

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微生物代謝工学研究室(政井・上村研究室)