研究室

糖鎖生命工学研究室

「ヒトを見たらタンパク質だと思いなさい」とは、大学の生化学の恩師の言葉でした。しかし、私たちの体を構成するすべての細胞の表面は、タンパク質や脂質に結合した糖鎖で覆われているので、本当は「ヒトを見たら糖鎖だ」と思わなければなりません。糖鎖は「癌」などの病気になると構造が変化することから(図1)、病状の診断のためのバイオマーカーとして使われています。また、糖鎖が正常に合成できないマウスは臓器の形成がうまくいかないために生まれてこなかったり、様々な異常を示します。このように、糖鎖は生命現象に密接に関わっています。私たちは糖鎖の働きを分子、細胞、個体のレベルで解明し、その機能や発現制御機構を生命科学・医薬分野へ応用し社会に貢献したいと考えています(図2)。

研究室風景

スタッフ

佐藤 武史 准教授 佐藤 武史

研究プロジェクト

糖鎖の発現制御機構の解明とその応用
私たちは新規の糖転移酵素(糖を付加し糖鎖を作る)遺伝子をクローニングし [Sato, T., et al. (1998) PNAS 95: 472]、この遺伝子のヒト癌細胞における転写制御を明らかにしてきました [Sato, T. and Furukawa, K. (2004) J. Biol. Chem. 279:39574]。現在、ヒトの癌や疾患に関係する糖転移酵素遺伝子の転写制御機構を解析しています。最近、私たちは大腸癌の予後不良に関係する糖転移酵素遺伝子の転写制御機構を明らかにしました[Sugiyama, A., et al. (2017) Biol. Pharm. Bull. 40:733]。今後、糖転移酵素の転写制御機構に着目して、酵素遺伝子の発現を阻害する薬剤を簡便かつ高感度に検出できる新規スクリーニングシステムを構築していきたいと考えています。
転写因子に着目した癌の悪性形質の抑制
生体内で起きている生命現象には複数の分子が関与しており、1つの分子に着目していたのでは、研究対象とする生命現象を完全には解明できません。病気を転写因子で制御するモデルとして、1つの転写因子の発現を調節して複数の癌関連遺伝子を制御することで、癌の悪性形質を抑制できることを見出しました。今後、細胞内で起きているシグナル伝達の変化にも着目して、転写因子の制御による癌悪性形質の抑制メカニズムを解析していきます。
細胞の分化を糖鎖で制御できるか?
私たちの研究室では、糖転移酵素遺伝子の発現を制御することで、癌の悪性形質を抑制できることを見出してきました [Shirane,K., et al. (2014) Glycobiology 24: 532]。糖鎖は細胞の分化の過程でも変化することから、糖鎖の発現を制御することで細胞の分化の制御を試み、生活習慣病の治療や再生医療へと応用していきたいと考えています。
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図1:細胞の癌化に伴って糖鎖構造は変化する
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図2:糖鎖の発現制御・機能の解明とその応用

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