野生動物管理工学研究室
近年、里山が荒廃し、中山間地の住民の過疎、高齢化が進み鳥獣対策が十分に実施できないなどの社会的背景から、奥山で生活していた野生動物が里山近くに出没し、その農林水産業被害額は年間200 億円に上り、深刻な社会問題となっています。そこで、本研究グループは、人間と野生動物の共存を目指し、野生動物の管理に必要な工学技術の開発や農林水産業被害防除を支援する野生動物の生態情報調査を行っています。研究対象動物は、カワウ、オオミズナギドリのような海鳥、ニホンザル、ツキノワグマ、イノシシなどの陸生大型哺乳類。専門となる学問分野は、生態学、動物行動学、生理生態学、野生動物管理学、保全生態学です。
スタッフ
准教授 山本 麻希
研究プロジェクト
- 1.先端工学技術を生かした鳥獣対策についての要素技術の開発
- 野生鳥獣による食害を防ぐためには、追い払いや防除器具の設置などに多くの労働力が必要だが、里山の過疎化、高齢化のため、労働力の確保が大変難しい。野生鳥獣による被害で収穫ができず、耕作を放棄する農家も増え、里山の過疎化に拍車をかけている。そこで、本研究室では、里山の労働力不足を工学技術で補うことで野生鳥獣と人間の共存するシステムを作り出すための技術開発を行っている。このプロジェクトは、本学の産学連携研究を支援するNTICの研究会「先端工学技術を生かした鳥獣被害対策研究会」の取り組みである。これまで開発した技術は、画像から動物を検知し、レーザー光を照射するシステムの開発、指向性の高い音響スピーカー、氷銃を利用した鳥類の防除刺激、ラジオテレメトリーを装着した鳥獣の行動を設置した受信機で自動記録し、動物の行動をモニタリングするシステム等がある。
(研究会のメンバー)柳和久(機械系)、岩橋政宏(電気系)、上村靖司(機械系)、入江博樹(環境・建設系)吉田昌弘(機械系)、福島忠男(NTIC)、廣井晃 (株)広井工機)、酒井龍市(株)イートラスト)
- 2.カワウの個体管理と被害対策に関する研究
- カワウは、古くから日本に生息していた魚食性の水鳥である。1970年代に農薬の生物濃縮による影響や河川干潟の改修などによる環境悪化によって全国で3000羽まで個体数が激減した。ところが、1990年以降、農薬の改善によって個体数が増え始め、全国の内水面漁業への被害や巣を作った樹木が枯死することによる植生被害などが問題となっている。本研究室では、新潟県におけるカワウの個体群の動向をモニタリングし、ドライアイスによる繁殖抑制を利用した個体管理、県内のカワウの内水面漁業の被害対策技術の確立、被害防除手法の開発等の研究を行っている。
- 3.粟島に生息するオオミズナギドリの保全生物学的研究
- 新潟県岩船郡粟島浦村の丸山地区一帯は、オオミズナギドリとウミウの繁殖地として国の天然記念物に指定されている。2007年より粟島浦村でオオミズナギドリの生態調査を開始し、海洋の高次捕食者である海鳥の繁殖生態調査を継続的に調べ、海洋環境の変動に対する海鳥の応答について調べている。また、本学電気系山崎克之研究室との共同研究として、島のブロードバンドを活用し、さらにオオミズナギドリをトリガーにしたエコツーリズムという夢まで想定し、観測情報ネットワークの研究を行っている。観測情報ネットワークでは、オオミズナギドリの生態を情報ネットワーク技術を利用して24時間観測し、親の行動、環境など様々なデータを取得し、生態研究を行っている。
准教授 山本 麻希 |